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Oral Cancer

口腔(こうくう)がんとは、口の中にできるがんのことで、がん全体からみるとその割合は約1%にすぎません。しかし進行すると命にかかわる重大な病気であることには変わりなく、最悪の事態を避けられたとしても、治療のための外科的な手術の後に、食べる、飲む、話すといった日常の生活レベルに支障をきたし、また審美障害も残してしまいます。早期であれば治癒率が高いことが特徴で、目でみて、手でさわって確認できるという意味では、早期発見が可能な疾患であります。

口腔がんとは

口腔がんには、舌がん、舌と歯ぐきの間にできる口底がん、歯肉がん、頬粘膜がん、上あごにできる硬口蓋がん、さらには顎の骨や唾液腺にも発生するがんがあります(図1)。一般には、口の中の粘膜にできる扁平上皮がんを口腔がんといい、日本では、舌がんが約55%と最も発生頻度が高く、次いで口底がん、歯肉がん、頬粘膜がんと続きます。舌がんの9割は舌の横側にでき、女性より男性のほうがかかりやすく(男:女=2:1)、男女ともに40歳以上が95%を占めます。

口腔内の各組織の名称

図1 口腔内の各組織の名称

原因

口腔内の歯以外の軟組織は、傷つくと自分で修復する力を持っています。しかし時として、がん抑制遺伝子の突然変異により、その修復がうまくいかず、細胞の増殖がコントロールできなくなると、がんが発生するといわれています。すべてのがんの原因が明らかになっているわけではありませんが、危険な要因として現在考えられているのは以下の3つです。

01

たばこ

口腔がんの中で最も寄与危険度(発生の原因を占めている率)が58%と高く、たばこを吸う人は吸わない人に比べ、約7倍も口腔がんになりやすくなります。紙巻タバコより葉巻タバコやパイプ喫煙のほうが、発生率が高いといわれています。

タバコ

02

飲酒

飲酒の口腔がんに対する寄与危険率は36%で、飲酒習慣のある人はない人に比べ約6倍、口腔がんになりやすくなります。高濃度のアルコールほど危険が高く、特に口底がんと関連が強いといわれています。飲酒に喫煙が加わると、さらに寄与危険率は65%に上がり、お酒もタバコも両方しない人に比べ、なんと約36倍もなりやすくなるといわれています。

飲酒 飲酒

03

機械的刺激

むし歯の穴や壊れた入れ歯、合わない入れ歯、一部が壊れた歯の詰め物やかぶせ物、磨耗して一部がとがった歯、頬の内側の粘膜を咬む癖など、慢性的な機械的な刺激も危険因子の1つとなります。特に舌がんでは、その発生に歯が関与しているケースが多いと報告されています。
これに加え、口腔や咽頭の粘膜が萎縮してしまう鉄欠乏性貧血にかかっていたり、ウイルス(パピローマウイルスなど)に感染していたり、口腔衛生状態が悪いと、さらに危険性は高くなります。

症状の現れ方―前がん病変

多くの口腔がんで、最も初期に現れる変化は、粘膜が白くなったり(図2)、赤くなったり、白と赤がまだらになったような色の変化です。こすってもとれず、2週間以上、症状が変わらないことで、口内炎と区別されます。白い粘膜の病変は白板症、赤い病変は紅板症と呼ばれています。白板症の悪性化は、7%~11%ですが、紅板症はその発生頻度は低いものの、悪性化率は数倍高いといわれています。この色の変化に加え、症状が進むと、表面が盛り上がったり、中心部に潰瘍ができたり、出血がみられたりするようになります。また指でさわっても境がはっきりしない硬いしこりがあれば、要注意です。

症状の現れ方―前がん病変

図2 白板症

治療方法

がん治療は年々進歩し、初期であれば、舌がんの場合、5年生存率は80%を超えます。
治療には、外科療法、抗がん剤を用いる化学療法があり、単独または併用して治療を行います。進行したがんには、手術が第一選択となりますが、近年では抗がん剤や放射線を併用して切らずに治す方法も進歩してきています。
口腔がんに不安を感じた場合は、まずはかかりつけ医に相談し、精密な検査が必要な場合は、口腔外科や耳鼻咽喉科を紹介してもらうとよいでしょう。

お口の観察を

口腔がんは、高齢化社会の進行とともに、発生する率が増加する傾向にあります。一方、他のがんと比べ、遺伝的な要因より環境的な要因の方が強く、禁煙や適度な飲酒、そして毎日の適切な歯みがきを中心としたセルフケアで、予防できる病気ともいえます。むし歯や歯周病予防に加え、時々自分のお口全体を観察する習慣をつけましょう。(図3)

症状の現れ方―前がん病変

図3 鏡を見ながらセルフチェックをしている様子

参考文献:口腔がん検診のためのガイドライン作成 日歯医学会誌:25,54-62,2006